嘘つきとまでは言えないが

先日、いきなり出荷停止中であることを話題にした日産の新型セレナですが、どうやら不具合が解消され、出荷を再開したようです。最新技術が投入された新型車が手元に届くのを楽しみにしていた皆さんも、これでひと安心…というところでしょうか。

既に購入者の皆さんの手に渡っている分については、正式にリコールの手続が取られたようです。まだ発売からひと月も経っていないのに、対象台数は1万台弱にも及びます。予約販売分が相当大量にあったことが窺えますね。

リコール扱いとなりましたから、発売から間もないことですし、不具合は時間が掛かっても全てのセレナでしっかり直されるはずです。不具合からどうリカバリーするか、そしてその後どう進んでいくかが大事ですよね。


今回の不具合の原因は、エンジンを始動するためのモーター。電気回路の耐性が不足していたため、アイドリングストップから再始動する際の大きな電流で回路がショートし、再始動できなくなることがあるのだそうです。最悪の場合、モーターが焼き切れて発火する可能性もあり、実際にディーラーで試乗中に発火した事例も報告されているようです。

セレナの場合、このモーターは単にエンジンを始動させるためだけのものではありません。エンジンが始動した後も、加速時には回り続けてエンジンをアシストします。また、減速するときには発電機として働き、バッテリーに電気を貯め込みます。1台3役なんですね。

これがセレナの「売り」のひとつである「S-HYBRID」。Sはスマート・シンプルの意味だそうで、大がかりな仕組みを追加しなくても、ハイブリッド車の利点である低燃費を実現しようとするものです。

モーターの出力はたったの2.6ps。しかし最大トルクは48N・mとメインエンジンの4分の1近くあり、しかも電気さえ流せば即最大トルクが取り出せるわけですから、出足の鈍いガソリンエンジンをアシストすると、走行性能面も含めて意外に効果があります。


とはいえ、専用の大型モーターと大容量の電池を搭載する本格的ハイブリッドと比べると、燃費低減の効果はかなりマイルドです。セレナの場合、今回のモデルチェンジ以前は、燃費でハイブリッドではないステップワゴンの後塵を拝していたくらいですからね。それでも、「ハイブリッド」をキーワードとして前面に押し出した日産のマーケティング戦略は、嘘つきとまでは言えないものの、何だかズルい気はします。

評論家の方々には結構評価が高いステップワゴンが、巷ではイマイチ売れていないのは、ハイブリッド車が設定されていないからでは?…という声があります。ダウンサイジングターボも、あまり本体価格に響かない低燃費技術としては有望なモノのひとつなんですが、「低燃費=ハイブリッド」というイメージが出来上がっている中では、最初から説明しなくてはならない分だけ競争に不利です。しかも、かつてはターボと言えば「パワーはあるけど燃料食い」というイメージでしたしね。

実は、本格的なハイブリッドを採用しても、本体価格の上昇と天秤に掛けると、ライフサイクルコストを考えたときにお財布には意外に優しくなかったりします。その点、最低限の本体価格上昇で、一応は「ハイブリッド」を名乗れるようにした日産の戦略は、実に巧みだった…と言えないこともありません。

ちなみに、S-HYBRIDの仕組みは、スズキ自動車の「S-エネチャージ」とほぼ同じ。現在はスズキでも「マイルドハイブリッド」という表現を使うようになりましたが、それでもあえて最初はハイブリッドを名乗らなかったスズキは奥ゆかしいのか、バカ正直なのか(苦笑)。


日産のマーケティング戦略と言えば、「ミニバン初の同一車線自動運転技術」というのも、よく考えてみるとちょっと胡散臭いところがあります。実際には、ハンドルから手を放すと一定時間でシステムは強制的にオフになる仕様なのだとか。つまり、「自動では運転させない」ことが前提で作られているものを、「自動運転」というキーワードで説明しています。

このあたりは、やはり日産が「自動ブレーキ」と呼んでいる衝突軽減ブレーキでも似たようなところがあります。導入され始めた当初は、各社とも制動はかけるものの、完全に停止はさせない仕様にされていたのだとか。最近は、停止状態まで持って行けるクルマが増えてきましたけどね。

これらはあくまでも運転者の運転を支援するもので、クルマが主体的に制御するものではない…というのが、日産に限らず業界としての基本的な立場のようです。そうしておかないと、事故が発生したときに製造者責任を問われてしまいますから、少なくとも現状の法律の中ではそうするしかないのでしょう。例えばセレナでは、衝突軽減ブレーキについて、「約30km/h以下で衝突回避の能力があります」との注記を入れています。能力を評価して正直に書いてあるだけなのかも知れませんが、ちょっと責任逃れの香りもします。

まあ、企業同士の競争ですから、最終的に「売ったもん勝ち」というところもあるわけで、どうやって少しでも気に留めてもらえるか、皆さん日々頭を捻っているんですよね。そこに乗るかどうかは、私たちの選択…ということになります。しっかり見極めたいところです。

そういえば、パナソニックがこういうマーケティング「技術」を結構駆使しますよね。「世界最軽量」などの数値にとことんこだわってみたり、一方でスペックで競合他社に敵わないと見ると「細かすぎないディスプレイ画面」「眩しすぎないプラズマテレビ」みたいな表現をしてみたりして。



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