国民栄誉賞を考える

実は、今回のWeekly SSKは通算100号になるんです。いつもなら「100回の歩み」とか言って1回分の原稿を作ってしまうところなんですが、最近の世の中には書きたいことが多すぎます。と言うわけで早速始めましょうか。第100回を記念して…というわけでもないんですが、なかなか偉そうなタイトルです。


先に行われたシドニーオリンピックで、陸上女子選手で史上初めて金メダルを獲得した高橋尚子選手に国民栄誉賞が授与される方針だとか。これにはびっくりしました。国民栄誉賞というのはこういう人にあげるものだとは思っていませんでしたから。

もともと国民栄誉賞は、プロ野球・読売ジャイアンツの王貞治選手(受賞当時、現・福岡ダイエーホークス監督)が通算本塁打数の世界記録(756本)を達成したときに、その偉業を称えて授与されたのが始まりですね。その後現在まで14人が受賞しています。ちょっとここに並べてみましょうか。

氏名(敬称略) 職業 受賞日 備考
王 貞治 プロ野球選手 S52.9.5
古賀 政男 作曲家 S53.8.4 死去後受賞
長谷川 一夫 俳優 S59.4.19 死去後受賞
植村 直己 冒険家 S59.4.19 行方不明
山下 泰裕 柔道選手 S59.10.9
衣笠 祥雄 プロ野球選手 S62.6.22
美空 ひばり 歌手 H元.7.6 死去後受賞
千代の富士 力士 H元.9.29
藤山 一郎 歌手 H4.5.28 受賞後死去
長谷川 町子 漫画家 H4.7.28 死去後受賞
服部 良一 作曲家 H5.2.26 死去後受賞
渥美 清 俳優 H8.9.3 死去後受賞
吉田 正 作曲家 H10.7.7 死去後受賞
黒澤 明 映画監督 H10.10.1 死去後受賞

(参考資料:総理府ホームページ

受賞者リストを見てまず気が付いたことは、「死去後受賞」が多いこと。実に半数以上の8人(未だ行方不明の植村直己氏を含めれば9人)が、自らの受賞を知りません。国民栄誉賞だけでなく、各種勲章や褒章、文化勲章にもこの「死去後受賞」はよく見られます。前にもちょっと触れた話ですが、何だか「死んだから偉い」みたいな気がして私はあまり好きではありません。出来ればご存命のうちに表彰してあげて欲しいものです。ただ、表彰の対象になる功績や普段の活動には定年や引退はありませんから、確かに表彰するタイミングも難しいとは思うんですが。

こうして並んだ受賞者の中に高橋選手をはめ込んでみて気が付くのはその若さ。年齢的なことだけではなく、スポーツ選手の中で現役のピークと言える状態で受賞するのは彼女だけです。私が国民栄誉賞に対して持っていたのは「長年ご苦労様でした」的なイメージ。高橋選手は4年前のアトランタオリンピックの時にはまだマラソンを走ったことの無かった選手です。だからこそ彼女の受賞には何だか不自然さを感じてしまったんですね。

高橋選手が受賞してしまった場合の心配は彼女の今後の競技生活。もし今後の彼女が目立った実績を上げられずに終わってしまったら、その後の彼女の人生にとって、国民栄誉賞は間違いなく重荷になってしまうことでしょう。そうでなくても、レースに出るごとに彼女にかかるプレッシャーは今までの比ではありません。かわいそうだと思いますよ。新聞報道などによると、実は日本陸連もそれが心配なようですが。


ところで、国民栄誉賞は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があった者」に与えられる賞だそうです。実は、王選手が記録を達成したときに、この分野の人たちに国として表彰する賞が存在しないことに気が付いて慌てて作った賞…と言った方が正確なのかも知れませんが。

…と、それはともかく、この基準を見ると、「永年」とはどこにも書いてないんですね。ということは、高橋選手のような若い人が一回の試合で挙げた実績に対しても、授与することには全く問題ないわけです。むしろ、この「永年」が条件になる他の叙勲に比べれば、若い人たちがもっともっと受賞するべきなのかも知れません。実は、王選手や衣笠選手辺りの年代も、勲章を貰う人たちと比べれば格段に若いんですが。

選手個人へのプレッシャーがかからないようにするためには、選手個人に賞を与えるのではなく、その業績に賞を与える(例えば「高橋尚子選手」ではなく「陸上女子選手初の金メダル受賞」に賞を与える)と言う形にしてはどうかな?とも思います。これなら団体競技の優勝チームにも授与できますが、そうなるとありがたみが薄れてしまいそうな気もします。そんなことも考えると、表彰するのも結構難しいものですね。


国民栄誉賞の問題はもっと根本的なところにもあると思います。それは、選考基準そのもの。今回の件の新聞記事でちょうど掲載されていた受賞者一覧を見て母が言いました。「どうして美空ひばりが貰ってるのに石原裕次郎は貰ってないのかしら?」。母は美空ひばりよりも石原裕次郎の方が好きだったからこう言ったのでしょうけど、実はこれって授与を決定する政府の側も同じ事だと思うんです。何しろ基準があれだけ曖昧ですから、最後に決め手になるのは選考者の好みくらいしかありません。

シドニーオリンピックに限っても、先に挙げた条件に合わせてみれば高橋選手がずば抜けていたとは思えないんですよね。他にも国民栄誉賞に値する人はたくさんいたと思います。高橋選手も結構かわいい顔をしてますから、政治家のセンセイ方にはウケが良かったのかも知れませんね。「オリンピックの選手団を代表して」という趣旨の発言もあったようですが、そうだとすると、代表としてたった一人でこの重い十字架を背負う高橋選手はなおさらかわいそうです。

今回の高橋選手への授与については、一部のマスメディアでも批判的な意見が出ています。こうした状況で授与しても、果たして「広く国民に敬愛され」たことになるのでしょうか?。そうした意味でも、かわいそうなのはやはり高橋選手だと思います。…インタビューなどを見ていると、彼女にはそんなプレッシャーは無縁なのかな?と言う気も少ししますけどね。



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