区名選びのセンス

私が住んでいる浜松市は、昨年7月に12市町村による広域合併を実現させ、現在は来年4月からの政令指定都市への移行を目指しているところです。「政令指定都市」というのは、その名の通り政令で指定される特定の市で、現在14あります。都道府県とほぼ同じ権限を与えられるようになる、市への「格付け」としては最上級に当たるものです。

政令指定都市は、法令上では「人口50万人以上」を指定要件の一つとしていますが、実際には人口100万人を目安に指定されて来ました。しかし、近年の合併促進施策の一つとして、このハードルが70万人に引き下げられました。既に昨年4月から政令指定都市になっている静岡市、今年4月から政令指定都市になることが決定している大阪府堺市、さらには浜松市など現在政令指定都市を目指している市は全て、この人口要件の緩和でステップアップへの道が開けた市です。


市や都道府県で働いている公務員の皆さんにとっては、政令指定都市が生まれることは仕事に多大な影響を与えます。都道府県から市へと、多くの仕事と財源が動きます。これに合わせて、人も動くことを余儀なくされます。2年間で、県の人口の約4割に当たる150万人を相次いで2つの政令指定都市に持って行かれてしまう静岡県は、とんでもない事態に直面していると言えるのかも知れません。

しかし、私たち一般市民のレベルから見るとそれはあまり大きな問題ではなく(市が独自に使える予算が増えることで、生活が便利になっていくのかも知れませんが)、政令指定都市になることで最大の変化は「区」が出来ること。法令では政令指定都市は行政区を「置くことが出来る」とされているようですが、現在ある政令指定都市は全て行政区を置いています。

浜松市では、政令指定都市に移行するときに7つの区を設置することが既に決まっています。基本的には市町村の境などを元にして区切り、特に人口が多い旧浜松市内はさらに細かく自治会単位で区切っています。私の住んでいるところは、浜松駅や市役所、浜松城などが含まれる、旧浜松市でも中心部だった地域と同じ区に含まれることになりました。まあ、私の家からだと浜松駅に出るまではかなり時間がかかってしまいますし、5分も歩けば隣の区に行けてしまうんですけどね。


これらの区に名前を付けるために、区名の一般公募が昨年秋に行われ、数多くの案が応募されました。これらの中から各区に5つずつの候補が選ばれ、この中から一つずつを選択する…という区名投票が今年1月に行われ、その結果がこのたび公表されました。市の「行政区画等審議会」がこの結果を基に答申をまとめ、おそらくこの案が正式に区名として決まることになるのでしょう。この辺りの経緯は、浜松市のWebサイトで見ることが出来ます。

区名投票のときに並んでいた区名候補を見ると、意外に変化に富んでいて面白かったんですよね。方角を付けた名前以外にも、古くからの地名などを元にした名前、イメージを大事にした名前などが顔を出していました。ただ、同じ「緑区」が3つの区の候補として並んでいたのには首をかしげてしまいましたが。ちなみに、「緑区」は千葉市、さいたま市、横浜市、名古屋市の4市で既に使われている名前です。

以前から、地域の歴史や文化は大事にしていくべきじゃないかな?と思っていた私は、なるべくこの線に沿って名前を選びました。私の住所になる区には、浜松城の旧称「引馬城(ひくまじょう)」につながる「曳馬区(ひくまく)」を選びました。旧天竜市よりも北の「北遠(ほくえん)」と呼ばれる地域には、この地域のほぼ中心にある、火の神を祭った全国の「秋葉神社」の総本山から取った「秋葉区」を選びました。


投票結果を見て、正直なところがっかりしました。得票数1位だった区名を並べると「中央区」「南区」「東区」「浜北区」「西区」「北区」「天竜区」。中央と4方位、そして旧浜北市全域が浜北区で旧天竜市以北の地域が天竜区…という、実に味も素っ気もない名前になりました。これと比べると、「葵区」「駿河区」「清水区」と名付けた静岡市からは独自性を示そうとする気概を感じて好きです…命名理由やそのセンスはともかくとして。

先に「緑区」の話に触れましたが、「中央区」や東西南北の方角を付けた区名は、それ以上に最もありふれた区名です。実は政令指定都市の区名で一番多いのが「西区」の9つで、以下「南区」が8つ、「北区」が7つ、「中央区」が6つ(堺市は含む、東京23区は制度が違うので含まず)…と続きます。古くからの地名を取ろうとすると、複数の候補が挙がり、その中から絞り込むのが難しくなることもあるはずです。特に住民投票になると各地区の投票が割れてしまい、結局一番無難なこれらの名前が最多の票を獲得することになるのかも知れません。

協議会で検討した結果、「中央区」が最多得票である区に既に「中央」という町名があることに配慮し、この区は2位の票を集めた「中区」に変更した上で、他は得票数1位のものをそのまま答申することになったようです。「中区」も既に横浜市、名古屋市、堺市、広島市の4市にある名前です。正直なところあまり嬉しくない結論ですね。特に、この中でも名古屋市と一緒なのが妙に気に障っている自分がいます。どうして?と聞かれても困ってしまうんですが…。

ところで、もし今回の合併で浜名湖西岸の湖西市と新居町も参加していたら、区割りそのものも大きく変わったでしょうし、浜名湖東岸の地域に「西区」という名前が付くことはまずあり得なかったでしょう。もしこれら2市町が将来的に浜松市と合併しようとすれば、「西区」という区名は私たちの頭をかなり混乱させてくれそうです。方角を冠した名前は、こういう点でもあまり望ましくないような気がします。


浜松は私の育った思い出のたくさん詰まった街。そして、今も思い出がどんどん増え続けている街です。1年後に私が浜松市「中区」の区民になっているかどうかはわからないんですが、住所に新しく何か名前が付いても、浜松に対する思いはきっと変わらないことでしょう。結局のところ、名前がどうなるか…ということは些細なことなのかも知れませんね。一方で、それでもなお名前にこだわってしまう自分もいるわけですが。

来年4月からの政令指定都市への移行を目論む浜松市。移行に際して最大のポイントの一つとなる行政区の区割りや名称の決定、区役所の着工…といった仕事が進められてきているようです。私たちにとっては、行政区の設置は目に見える最大の変化。実質的な問題ではないと言え、どのような区名になるのかは非常に気になる話題です。

ところで、今回の記事を書いていて面白かったのが、かな漢字変換システム「ATOK2006」の挙動。ATOK2006では、旧市町村名を打ち込むと新市町村名が表示される…というアシスト機能があります。例えば「天竜市」と打ち込むと「《編入→「浜松市」》」などとメッセージが出てくるんですが、「旧天竜市」と打ち込むとこのアシスト機能が働きません。意図的に旧市町村名を打ち込んでいることを、ATOK側が判断しているようです。実に芸が細かいですね。恐るべし、ジャストシステム。



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