悔しくて、寂しくて、でも誇らしくて

今日は、「2006若葉チャリティコンサート」を聴きに、浜松駅前・フォルテホールに足を運びました。このコンサートは、浜松若葉ライオンズクラブが、予防できる失明(伝染病トラコーマなどが原因のもの)を減らすために行っている「視力ファースト2」キャンペーンの一環として行われたのだそうです。私は、チケットをいただいたのが縁で今回聴きに行くことになりました。

ステージは3部構成。第1部はクラシカルなお馴染みの曲を並べたピアノ連弾でした。第2部は、管楽器を大々的にフィーチャーした地元のバンド・Violet Brassによる楽しいステージでした。観客席は総立ち…とまではならなかったのは、客層の問題かも知れませんね。コンサートホールよりも、野外ステージのような開放的な雰囲気で聴いてみたいパフォーマンスでした。

ところで、浜松といえば「楽器の街」として有名ですが、演奏活動としては吹奏楽のレベルが特に高いらしいですね。高校などの吹奏楽部にも全国大会レベルの学校がいくつもありますし、昨年聴きに行った浜松交響吹奏楽団など社会人による楽団も活動しています。これに比べると、私も参加している合唱や、管弦楽、ポップス、ロックなど他のジャンルは全然元気がないような気がします。


第3部は、鷹野雅史氏によるエレクトーンの演奏でした。「エレクトーン」と聞くと、2段の鍵盤と足鍵盤を持つあの楽器をイメージできる方も結構多いかと思いますが、正確には地元企業・ヤマハの作っている電子オルガンのブランド名。電子「オルガン」と呼ばれるとおり、もともとはパイプオルガンのスタイルがお手本になっている楽器です。鷹野氏は、世界を股に掛けて活動するトッププレーヤーの一人です。

エレクトーンは、私にとっても縁浅からぬ楽器です。実家にもエレクトーンは置いてありましたし、私の音楽の原点と言っても過言ではありません。電子オルガンを弾かなくなってからもう十数年。こうしてプロの演奏をじっくり聴けるのもずいぶん久しぶりです。このコンサートのプログラムで最も楽しみにしていたのがこの第3部でした。

鷹野氏の演奏は、私の期待通りの素晴らしいものでした。特に注目したのが足の動き。両足のつま先、かかとを器用に使いこなし、非常に細かい旋律も足鍵盤で弾きこなしてしまいます。両手が伴奏でふさがっているのにメロディーが聞こえる…ということが何度かありましたが、こんなときには実は足鍵盤がメロディーを奏でているんです。私も両足を使った演奏は練習したことがありますが、やっぱりトッププロのパフォーマンスは格が違います。何しろ、動きが正確かつ繊細で、足で弾いていることを全然感じさせないんですから。


ところで、私が電子オルガン演奏から離れて以後、楽器の技術革新がいろいろと進みました。一番大きな変化は、鳴る音自体が変わったこと。私が習い始めた頃には、非常にシンプルな電子音で奏でられるのが普通で、その後自分で音を合成するパラメータを調整できるアナログシンセサイザー的機能が高級機に内蔵されるようになり、一部には生楽器の音を録音して使うPCM音源も使われるようになりました。現在は、一番安い入門機でもPCM音源が当たり前。音のリアルさは格段に向上しています。

このため、特に生楽器を模倣する演奏…今回は「スターウォーズ」のメドレーやクラシック曲の「ボレロ」などがありましたが、これらが実に本物そっくりになっています。目をつぶって聞いていたら、生楽器での演奏と区別が付かないかも知れません。もっとも、エレクトーンの超絶技巧は見逃しては損だと思いますが。昔から「一人オーケストラ」とは呼ばれてきましたが、音質の面でもその名にふさわしい、全く遜色ない勝負が出来るようになりました。

PCM音源で使える音色が格段に増えただけでなく、これらを鍵盤上の好きな場所に割り当てられるようになったのも大きな変化です。今日の曲目の中には、ドラムソロを演奏している部分がありましたが、これは鍵盤個々に別々の打楽器の音色を割り当てて演奏しています。私が現役だった最後の頃にようやく登場してきた機能で、結局自分では使ってみる機会がありませんでした。

今日の演奏を聴いていて感じたのは、この楽器の世界もずいぶん変わったな…ということでした。少なくとも、楽器の機能向上で、私が弾いていた時代には出来なかったことがいろいろと出来るようになっています。何だかちょっと悔しい気になりましたね。あの頃にこれだけの楽器が使えれば、出来ることはもっともっとたくさんあったのに。


一方で、楽器の進歩によってちょっと寂しくなった部分があります。鍵盤に割り当てる楽器の組み合わせは、演奏の進行に合わせてボタン一つで簡単に変更でき、場合によっては自動で切り替えることも出来ます。私が始めた頃には、たくさん並んでいるスイッチを個別に切り替える必要があって、演奏中のわずかな休符の間を使って、「この小節の3拍目裏でこのスイッチとあのスイッチを切り替えて、あのレバーも操作」みたいなことをしていたものです。これに比べれば、ボタン一つは実に楽です。

ただ、あの頃のシビアなスイッチ切り替えもテクニックの一部で、切り替えが決まると結構快感だったんですよね。そういう意味では、やっぱり寂しくなった気持ちが強いですね。もっとも、エレクトーン奏者にとっても一番大事なのは音をきれいに出すことですから、スイッチ切り替えという余計な操作は排して、鍵盤を叩くことに集中した方が良いのは確かなんですが。


鷹野氏が弾いている間、観客席はしーんと静まりかえり、彼の両手両足を駆使したパフォーマンスを固唾をのんで見守っていました。そして、1曲の演奏が終わると割れんばかりの拍手。すっかり観客席のハートを掴んでいました。演奏自体に心を奪われただけでなく、同じ楽器をかじったことのある人間として実に誇らしかったですね。先月のピアノコンサートでも思ったんですが、この楽器に巡り会えて、本当に良かった。

今日出かけた演奏会で、ずいぶん久々にエレクトーンの本格的なライブ演奏を腰を据えて聴く機会がありました。エレクトーンの演奏自体は、それこそヤマハの店頭でもときどきデモをしていますから、聴く機会がありますが、ステージ上でのトッププロの演奏はやっぱり気合いの入り方が違います。

今回の鷹野雅史氏のステージで面白かった選曲が「士官候補生」という作品。タイトルは知らなくても、小学校や中学校の吹奏楽部がよく演奏する行進曲で、聴けば「ああ、あの曲か」とわかります。もともと吹奏楽部にいたこともある鷹野氏が、「中学時代のそのままに」と前振りをしてから弾き始めましたが、微妙に合ってないリズム、合っていないピッチ、裏返る高音、手から落ちて大音響を響かせるシンバル(爆笑)…と、まさに中学生そのもの。まあ、このあたりは先にかば姉さんに書かれちゃったんですが。

こうした演奏をするのは、ばっちり決めた演奏をするよりも難しいんです。並のレベルでは、あれだけ下手な演奏は出来ないはず。普通は、あんな音を自分が弾いているのが気持ち悪くて耐えられません。エレクトーン自体にも、鍵盤ごとにピッチを微妙にずらして設定しておくなどの細工が必要になるはずです。こうして笑いを取るためにも実に真剣。まさにこれこそプロフェッショナルです。



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コメント

“悔しくて、寂しくて、でも誇らしくて” への4件のフィードバック

  1. かば姉さんのアバター
    かば姉さん

    ツボに入ってしまったところが同じだったようですね(笑)
    爆笑と感動を同時に経験させてくれる演奏なんて、なかなかありません。電子オルガンという楽器のすばらしさを実感しました。もちろん、演奏者の技術とセンスがすばらしかったのは言うまでもありません。
    この楽器を操っていたことのある師匠は、やっぱりすごいよ!

  2. かば姉ちゃんのアバター
    かば姉ちゃん

    トラックバックを受信しました。
    記事: ノリノり・鳥肌そして爆笑
    今日は、チャリティーコンサートにいってきました。 美しい女性によるピアノ連弾から…

  3. 水上紫緒のアバター
    水上紫緒

    本当にあの演奏は面白かったですよね!演奏会でゲラゲラ笑う体験をしたのは始めてです。それにスターウォーズやボレロは鳥肌ものですばらしかったですものね。良いコンサートでした!
    楽器が出来る人がすごーく羨ましいと再認識しました。私も何かやってみたいなぁ(笑)

  4. S.S.K.のアバター

    かば姉さん:演奏者の技術とセンス…確かにそこが大事なんですよね。電子オルガンという楽器は、まともに演奏できるまでのハードルがちょっと高めなせいか、ついつい「足でどれだけ細かいフレーズが弾けるか」などテクニックに走ってしまう面がある楽器です。でも、それだけでは足りなくて、音楽を通してどんなことを伝えたいのか、確固としたポリシーを持っている人が、トッププレイヤーと呼ばれるようになっているんだと思います。

    紫緒さん:楽器にもいろいろありますが、学校の音楽の授業でよく使われる鍵盤ハーモニカ(「ピアニカ」もヤマハの商標)やリコーダーなんかも立派な楽器ですよね。本気で使いこなそうとすると、結構奥の深い楽器だったりします。物置の奥から引っ張り出して、使ってみるのもおもしろいかも知れませんね。だいたいそれ以前に、紫緒さんだって「自分の声で歌う」という素晴らしい楽器を持ってるじゃないですか(笑)。

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