「モバイルノートPCを新調したい」と言い始めてから、もう2年以上もの間、購入に踏み切れずに足踏みを続けています。この間いろいろな出来事はあったわけですが、最大の混乱を生んだ要因は、昨年6月にMicrosoftがぶち上げた「Copilot+ PC」にあるのは間違いありません。
Copilot+ PCが、それまでのAI PCを大きく超える「40 TOPS以上の能力を持つNPUの搭載」を必須の要件とし、それを満たせていたのが当初は互換性に不安のあるSnapdragon Xシリーズしかなかったこと。そして、特にIntelがCopilot+ PCに対応できるプロセッサーを未だにフルラインナップで揃えられていないことが、状況をややこしくしています。
AMDには、ハイパフォーマンスからローエンドまで幅広くCopilot+ PCを提供できるRyzen AI 300シリーズという持ち駒がありますが、Intelには従来のUシリーズに相当する省電力プロセッサーのCore Ultra 200Vシリーズ(Lunar Lake)しかありません。Copilot+ PCが主にモバイルノートPCを念頭に置いたブランドである以上、「ワッパの鬼」Lunar Lakeはコンセプトに忠実な商品であるとは言えるのですが…。
後から登場したCore Ultra 200H/200Uシリーズに載っているNPUは、初代Core Ultraに載っているものよりちょっと速い程度で、これではCopilot+ PCにはなれません。200Hシリーズについては、GPUとの合わせ技でならなんとか計算能力は足りそうな気もするのですが、そもそもCopilot+ PCが新しいハードウェアを普及させたいがためのマーケティング戦略ですし、Microsoftはこの方法での動作をもし認めたとしても、「Copilot+ PC」を名乗らせるのは認めないだろうと思っています。
Windows 11ではCopilot+ PCに対してのみ、NPUを使ったローカル動作のAI機能が提供されます。AMDやIntelのx64プラットフォーム向けにはなかなか展開されず、「意図的に遅らせているのでは?」と思ってしまうくらいでしたが、春が来てようやく、Snapdragon X機と足並みが揃ってきました。
特に、Copilot+ PC向けの「目玉機能」と言われながら、一般公開が延び延びになっていたのがRecall機能。「思い出す」という意味ですが、日本語版でもそのまま「リコール」と呼ばれるようですね。ざっくり言えば、「前に見たはずのアレ、どこにあったっけ?」を自然文検索で探してもらえる機能です。
これを実現するために、Windows 11のシステムは数秒おきにスクリーンショットを記録し、内容をAIに整理させます。バックグラウンドでほぼ常時、相当ヘビーなAI推論が走るはずです。処理するデータが大量で、しかも個人情報満載であることを考慮すれば、クラウドに送らずに処理するべき作業であり、高性能で省電力のNPUの持ち味が生きそうです。
それどころか、RecallはCopilot+ PCが要求する「40TOPS以上のNPU」の能力がまともに生かせる唯一の機能…と言っても過言ではありません。字幕や翻訳、Windows Studio Effect(オンライン会議で送る自分の動画を調整します)などの機能は、10TOPSクラスのNPUでも十分こなせるでしょうし、文章や画像等の生成AIなら、クラウドやGPUのパワーに任せた方が快適そうですよね。Windows標準の機能にこだわらなければ、これらを活用してローカルでAIの推論処理を行うアプリの数は増えてきています。
ただ、Recallの発表直後から、処理したデータが他者に漏れた場合の影響の大きさを懸念する声が噴出しました。さすがにMicrosoftでもそのまま提供を始めるわけにはいかず、ユーザーの承認なしで有効にならないオプトインの機能にした他、データの暗号化やWindows Helloでの認証の必須化などのセキュリティー強化を行い、ようやくプレビュー版の公開にこぎ着けられたところです。
ここ数年、「AI」といえば画像生成AIやチャットAIなどの派手な飛び道具がもてはやされてきましたが、実はAIが一番役立つのは、Recall機能のような「能動的な作業の堅実なアシスト」ではないかと思います。Copilot+ PCでは、通常のファイル検索でも、自然文でより多彩な検索が可能になるのだそうです。そういう強化なら、AIの活用は大歓迎です。
生成AIを使いたいだけなら、強力なGPUの載ったデスクトップPCでもあった方が満足度が高そうですし、そもそもクラウドにお願いするのでも構わないでしょう。Copilot+ PCである必然性もないと思います。一方で、Recallの様なAIによる検索機能を使うためにCopilot+ PCが必要だ…ということなら、使ってみたい気がします。年々、物忘れもヒドくなるでしょうしね。
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