最近、ICT界隈で「ワッパ」という言葉をよく見かけるようになりました。「わっぱ」といえば、薄い木の板を曲げて作った弁当箱などの器のことが真っ先に思い浮かぶワタシですが、アレのことではありません。漢字で「童」と書いて子供のことを指す言葉でもありますが、コレとももちろん違います。
ここで言うのは「ワットパフォーマンス」の略で、消費電力あたりの性能のことを指します。コンピューターの中では、CPUやGPUなどの小さなパーツがとんでもない電力を消費しています。基本的には高性能なモノほど「電気食い」なわけですが、際限なく電気を使うわけにも行きません。消費電力の大きさに伴う発熱への対応が課題になりますし、持ち運ぶデバイスの場合は、電池の容量により動作時間や性能が制約を受けます。
そんな難しいことを言わずとも、同じ仕事をさせるなら電力消費は少ない方がウレシイ…というのは、実にわかりやすい話ですよね。特にモバイル機器はより小さく、軽く、長時間使えるものになり、付加価値が高まります。
9月になりました。毎年この時期には、ドイツでエレクトロニクス関連の国際展示会・IFA(Internationale Funkausstellung)が開催されますが、これに先立って、Intel社がそれまで「Lunar Lake」という開発コードネームで紹介していた次世代のプロセッサーを「Core Ultra シリーズ2」として正式に発表しました。今月末には、搭載製品が巷に出回り始めるのだそうです。
初代Core Ultra(Meteor Lake)が発表されてからまだ1年経っていないのですが、こんなに早いタイミングでもう次世代か…という思いは強いです。とはいえ、いろいろな技術解説を見聞きしたところ、「シリーズ2」とはいうものの、Lunar LakeはMeteor Lakeとはちょっと考え方が違う別物に感じます。少なくとも、直系の後継であるとはとても言えません。
Meteor Lakeは、内部の各コンポーネントを細かいチップレットに分けて、動かさなくて良いところを極力止めることで平均消費電力を下げようとする「省電力の鬼」…と理解しています。一方のLunar Lakeは、フルパワーで動作したときの消費電力を下げることに注力されているように見えます。言い換えれば、電力効率をいかに高くするかにこだわっているとも言え、これは「ワッパの鬼」と呼ぶのが相応しいと思います。
Meteor Lakeは最大で「Pコア×6+Eコア×8+LP-Eコア×2」の合計16コア・22スレッドのCPUで構成されていますが、Lunar Lakeは現在公表されている9モデル全てが「Pコア×4+Eコア×4」で合計8スレッドのCPUとして認識されます。スレッド総数が少ないことだけでなく、Pコアにハイパースレッディングが装備されていないことが大きな特徴になっています。
ハイパースレッディングは、CPUコアひとつに付き2つのスレッドを動作させる…言い換えるとコアひとつを外からは2つに見えるようにしている技術です。CPUに動作速度を上げる改良がどんどん施されてきた中で、個々のコア内部には意外に時間待ちになったり遊んだりする場所が多くなったので、そこにもうひとつのコア分の仕事も詰め込んでしまえば、コアひとつで2つ分に近い仕事がこなせるはずだ…というのが、そもそもの発想ですね。
ただ、実際には性能は実コア2個には及ばず、しかもハイパースレッディングを実現するために「搬入口」を2つにするのにも追加の回路は必要になり、それは当然電力も消費します。今回「ワッパ最優先」で設計を考えたときに、シンプルに1コア1スレッドで作った方がいいんじゃね?という話になったようです。2スレッドを捌くややこしい交通整理が減ることもあり、様々な強化の結果1コアあたりの速度でも有利になったようです。
スレッド数を増やしたいなら、Pコアに小細工するよりも、小さなEコアを追加した方が簡単じゃね?という話もありますね。Lunar LakeのEコアは、Meteor LakeのLP-Eコアよりもさらに低電力で、より高速な計算ができるように改良されているのだそうです。Intel社でも「今後の開発はハイパースレッディングよりもEコア追加」と考えているようです。
GPUも、NPU(Copilot+ PCを名乗らなくてはならないので)も強化されていますが、基本的には並列処理のコア数を増やして力技で能力を高めている感じのようです。トータルでは、他社の競合製品を上回る性能を、より低い消費電力で実現できる…とのことですが、このあたりは実際の製品によるレビューが出てこないと何とも言えないところです。ホントにそんなことができたらスゴいと思うのですが、にわかには信じがたく…(汗)。
日本のインテルも、国内でのイベントでCore Ultra シリーズ2を紹介しました。このイベントの場で、「近いうちに日本でCore Ultra 200Vシリーズを搭載するノートPCを発売するメーカー」として9社が紹介されました。レノボ、HP、デル…といったグローバルメーカーが出てくるのは当然だと思いましたが、マウスコンピューター、サードウェーブ(ドスパラ)、ユニットコム(パソコン工房)と言った名前も挙がっているのはちょっと意外でした。
各社が搭載機のプレスリリースを出していたり、IFAで実機を展示したり…と、情報は少しずつ出てきています。今のところいちばん興味深いのは、ThinkPad X1 Carbonの最新世代が、Core Ultra シリーズ2を載せてついに重量1 kg切りを達成するらしいこと。お値段も当初はとんでもないことになりそうですが、今後のディスカウントに期待です。
「最初の9社」の中には、富士通はいませんでした。Core Ultra シリーズ2を使えば、従来のFMV LIFEBOOK UH世界最軽量モデル並みの構成で、5G搭載モデルに迫るバッテリー動作時間や計算性能が実現できるのでは?と期待してしまいます。デビューまでに時間がもう少しかかるのは仕方ないでしょう。とりあえず、ワタシの中ではコレ待ちですね。
DynabookやVAIOあたりの名前もなかったのはちょっと残念でしたが、彼らもそれなりに時間を掛けて新製品には採用してくるでしょう。このタイミングでパナソニックが居なかったのは当然でしょうけれど、彼らもいずれレッツノートに載せてくるはずです。…まあ、出てきたところで、ワタシが買えるお値段だとはとても思えませんが(涙)。
ちなみに、今回のアイキャッチ画像は久々にWindowsのCopilotにお絵描きを頼んだもの。あえて曖昧に「Lunar Lake描いて」と頼んだらこうなりました。確かに月と湖、ではありますが…。こんな画をクラウドに頼らずにどんどん使えるようになる未来は、どのくらい先になるんだろうなぁ。
コメントを残す