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ローカルAI、どちらに転ぶか

1月も2回目の日曜日を迎えました。そろそろ、正月気分も卒業して公私ともに本格始動…と行きたいところですが、実際にはなかなか思うように進まないものです。まあ、ぼちぼちエンジン掛けていきますよ。

例年、この週のイベントでSSK Worldとしては常に気にしているのが、アメリカのラスベガスで開催されているテクノロジー志向の国際展示会・CES。もちろん、今年も開催されています。ここ数年、AIが話題の中心であり続けていますが、ことPCでのAIの活用に関しては、各社の思惑が交錯し、なかなか複雑な状況も見えてきています。


昨年9月に、Qualcomm社がSnapdragon X2シリーズプロセッサーを発表しました。「Windowsを動かすためのSnapdragon」として、全方位的にアップグレードされていますが、やはり最大の特徴となるのは、NPUが80 TOPSに強化されたことでしょう。CES 2026では、ミドルクラス向けのSnapdragon X2 Plusも追加発表され、先に発表されたX2 Elite Extreme/X2 Eliteも含め、各PCベンダーからこれらを搭載した製品が発表されています。

CES 2026の会場で行われたQualcommの記者会見には、Microsoft社の幹部も登壇し、こんなことを言っています。↓

また、Qualcommの記者会見にはMicrosoft Windowsコンシューママーケティング担当副社長ジェームス・ハウエル氏が登壇し、Outlookに実装しているNPUを利用した要約機能などについて触れ、NPUの80TOPSという性能が必要になってくるだろうと述べ、今後の機能拡張に備えてNPUの高い性能が必要だと説明した。

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/event/2076708.html

現在のCopilot+ PCは40 TOPS以上のNPUが搭載されていることが主要な要件になっていますが、それではまだ足りないと思っているようです。WindowsはローカルAIのプラットフォームになるのだ!という意気込みを感じます。ところが、この熱量がPC関連業界全体に広がっているのか?となると、どうやらそうではなさそうだ…という様子もいくつか見えてきます。


Intel社は、PC向けのプロセッサーベンダーとして、依然として重要な存在の一つです。このたび、これまでコードネーム「Panther Lake」で呼ばれてきたCore Ultra シリーズ3を正式に発表しました。これまでのIntelのラインナップは、Copilot+ PCが作れるプロセッサーが「超省電力版プレミアム」のLunar Lakeしかなく、それよりも後発のArrow Lakeは、CPUの演算性能がより高いにもかかわらず、NPUの能力不足でCopilot+ PCの要件が満たせませんでした。Panther Lakeの市場投入により、このいびつな状況が解消されることになります。

しかし、Panther Lakeに搭載されるNPUの性能は、最大でも50 TOPS。Lunar Lakeに搭載されていたものとほぼ同レベルです。同じ処理性能でも省電力化が図られているそうで、改良されていないわけではないのですが、Microsoftの要求とは明らかに違う方向を向いています。実際に、Intelのプレスリリースでも、NPUの話より電力効率やGPU性能の向上に重きが置かれている印象です。

プロセッサーベンダーのもう一方の雄・AMDも、Ryzen AI 400シリーズを発表しています。もっとも、こちらは一昨年発表したRyzen AI 300シリーズをブラッシュアップした製品と言ってよさそうで、基本構造はほぼ同じ。動作クロック等が少し上がっている感じです。NPUの性能は、最上級モデルのRyzen AI 9 HX 475で60 TOPS。去年の段階で55 TOPSの製品があったことを考えると、こちらもNPUの性能向上に力を入れているようには感じられません。

Intel・AMDともに、Qualcomm(とMicrosoft)が仕掛けるTOPS値競争には、今のところまともに付き合う気はなさそうです。それどころか、とりあえず40 TOPS超えだけはクリアしておいて、Copilot+ PCは作れるようにしておこう…というくらいの距離感を保っているようにも見えます。


完成品のPCを売るベンダー側からは、もっと直接的な発言も出てきています。PC販売シェア世界3位のDellは、CES 2026での製品発表で、AIを前面に出したアピールを全くと言って良いくらいしなかっただけでなく、それが意図的だったことも公言しました。ユーザーは、まだ実験的段階で役に立つかどうかわからないAIよりも、実際に役立つ機能や性能を求めているから…なのだとか。

さらには、こんな発言まであったようです。↓

In fact, I think AI probably confuses them more than it helps them understand a specific outcome.

「実際、AI は彼ら(ユーザー)が特定の結果を理解するのに役立つというよりも、むしろ混乱させているのではないかと思っています。」

Kevin Terwilliger, Dell Head of Product (PC)

私は「MicrosoftはローカルAIを強力に推すけれど、まだ全然使えねぇじゃないか」をちょっとオブラートに包んだ表現と理解しましたが、それにしてもずいぶんハッキリと言ったなぁ…とビックリしました。

IntelやAMDがNPUの性能向上に「全振り」してこないのも、まだローカルAIが実用レベルに達しているとは思えない状況で、NPUの性能向上のためにリソース(半導体チップの面積、と言い換えても良いでしょうか)を割いてしまうと、他の機能・性能が割を食ってしまうのが嫌なのではないかと思います。そして、QualcommがNPU性能を上げるのは、ここを勝負所と見ているからなのでしょうね。この隙にシェアをどれだけ奪えるか、一種の賭けです。

ただ、一方で押さえておかなくてはならないのは、AIの話に触れていなくても、今回Dellが発表した新製品には全てNPUが搭載されていること。Panther Lakeの登場により、普通にミドルクラスからハイエンドのノートPCを作れば、どのプラットフォームを選んでもNPUが載っていて、Copilot+ PCになれる…という状況が生まれました。別にそれをAI推しで売らなくても、もうしばらく経てば、巷のPCのほとんどにNPUが搭載されている状況が出来上がりそうです。その状況でNPUの能力を生かしたソフトウェアさえ投入できれば、ローカルAIの時代はいつの間にかやって来ていた…ということになるでしょう。


ところが、「ローカルAIならではの機能を持ち、誰でも欲しくなる」というキラーアプリを見つけるのは、結構な難題です。クラウドAIと比べるとどうしても計算能力では劣るローカルAIのメリットは、主にセキュリティーとレスポンスではないかと思っているのですが…。

画像や動画の編集アプリでは、映っている「モノ」を認識した画像切り抜きや、超解像処理の高速化など、NPUが使われるものが増えてきているそうです。主にレスポンスの向上に効果がありそうですが、万人向けとはちょっと言いがたいところです。

一方、最初にMicrosoftの幹部が例示していた「Outlookの文章要約」は、セキュリティーとレスポンス両方を生かした機能…と言えないこともありません。ただ、現在電子メールのプラットフォームで主流となってきているIMAPなら、メールボックスはそもそもクラウド上にあるわけで、ローカルにわざわざ持ってきて処理する必然性にちょっと無理がある気がします。既に行われている、GoogleがGmailをGeminiに処理させるようなクラウドで閉じたアプローチの方がシンプルですし、ネットワークで転送しない分だけむしろ安全かも知れません。

実際のところ、Microsoftは、Copilotのクラウド処理の中でできそうなものはローカルに移して…というより押しつけて、自社サーバーの負荷を減らしたいだけなのでは?と思ったりもします。「プライバシーの保護のため」とか説明しておけば、実は回りくどい処理になっていても、高価なCopilot+ PCが必要でも、ユーザーは納得してくれるかも知れません…って、私は納得しがたいけどなぁ。Googleに持って行かれて困るような秘密も、ちょっと思いつきませんし。

ともかく、ローカルAIが普及するかどうかはアプリ次第。今のところ、Microsoft自身が何とかして使い道を示し、必要性を証明しなくてはならないのですが、彼らもかなり苦労しているようです。既に役に立つ小技はいくつかあると思うのですが、それこそ80 TOPSを要求するようなヘビーな仕事となると、まだ決め手があるようには見えません。さて、どちらに転ぶでしょうか。


ThinkPad X13 Gen 6 Intel(左)はCopilot+ PCではないがNPUを内蔵

昨年8月に購入したThinkPad X13 Gen 6 Intelは、Copilot+ PCではありませんが、約13 TOPSの能力を持つNPUは搭載しています。現状では、NPUにはWebカメラの背景をぼかしたり、自動フレーミングや視線修正を行える「Windows Studio Effect」くらいしか使い道がありません。

ただ、これが結構侮れません。以前使っていたレッツノート・CF-SV8では、Web会議で意外にCPUの負荷が高く、バッテリー動作だとあっという間に容量が減っていきましたが、ThinkPad X13 Gen 6 Intelではずいぶん余裕があります。そもそもCPUにもかなり能力差はありますが、NPUは貢献していると思って良さそうです。先に触れた「役に立つ小技」の一つと言って良いと思います。

やろうと思えば、このNPUを使って、ローカルで画像生成AIを動かすこともできます。オープンソースの画像編集アプリ「GIMP」に提供されている「OpenVINO-AI-Plugins」で試してみました。「ひのえうま」のアイキャッチ画像を作ったのと同じプロンプトを与えてみたのですが、大規模なモデルを動かすのが難しいこともあり、Geminiが描いた画と比べると、何だかショボい画になってしまいました。これでは、わざわざローカルAIを使う気にはなりません。…というより、そもそも内蔵NPUはこういうことをさせるためのものではないのでしょうね。

外出先でも5Gの高速通信が確保できているので、クラウドAIでも十分使用に耐える状況です。待ち時間は多少はあるものだと思っていますから、苦になった覚えがありません。少なくとも今のところは、普通のPCとしての処理能力、NPU(ローカルAI)の恩恵、クラウドAIの使い勝手と、総合的にバランスの良い選択ができたと思っています。ただ、いつまで笑っていられるかしら。


昨年秋以降、巷ではメモリーやSSDなどPCを構成する各パーツの入手が困難になっていて、年末年始あたりは受注を一時停止した業者もありました。特に、Micronが個人向けブランド「Crucial」の事業を終了したのは、インパクトの大きなニュースでしたね。安定供給が困難になっているので、やむなく終了…という判断のようで、それだけ需給が逼迫しているということなのでしょう。

AIサーバー向けに部材が奪われてしまい、PCに回す分が不足している状況のようで、品不足や高値は2026年中は続きそうな情勢です。個人的には、昨年8月という購入タイミングは、滑り込みセーフだったと言えそうです。

それにしても、この状況だと、せっかくのSnapdragon X2搭載機やPanther Lake搭載機が巷に普及するのは、想定よりもかなり遅れるかも知れません。ローカルAIを普及させたいMicrosoft自身が、AIサーバーも大量に展開したいわけで、自分で自分の首を絞めているところもあるのですが…何とも今後の展開が読めません。

この際なので、NPU以外のコンポーネントでもAI演算能力が確保できれば、Copilot+ PC用の機能を開放していただけないでしょうか。そうなれば、おそらくシステム全体の合わせ技で要件を満たせるArrow Lake-Hユーザーの私としては、ウレシイ流れになるのですが…まあ、それはないだろうなぁ。



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