お正月気分が抜ける頃になると、CESのことが気になる私です。今年はアメリカのラスベガスで1月9日(現地時間)から開催されたCESは、かつては「世界最大級の家電見本市」なんて紹介をされることが多かったのですが、今は電化製品に留まらず、様々な先端技術を適用した商品、あるいは商品になる何歩か手前の技術がお披露目される展示会となっています。もちろん自分で見に行けるわけではありません(そもそも一般展示がない)が、報道でいろいろなモノが飛んでくるのを楽しみにしているわけです。
今年は、ホンダが次世代の電気自動車をプレゼンしたのが話題になりました。一応現在もホンダの「電動自動車」に乗っている私なのですが、エンジンを使わないクルマへのシフトを本格的に進めようとしているこの会社の動きを見ていると、本当に大丈夫なのか?と心配になることも多々あります。動力性能はともかく、燃料補給などの使い勝手の面では、現在の満足度を超えるためには(何らかの新しい価値観で取って代わるとしても)まだいくつものブレイクスルーが必要だと思います。私の人生の残り時間も考えると、純電気自動車のオーナーになる日は来なさそうな気はしていますが。
電気自動車の話はまだずいぶん先でしょうけれど、もうちょっと身近な「製品」の展示としては、昨年末に正式発表されたCore Ultraシリーズを搭載したPCが出てくるだろう…と注目していました。発表日の12月14日は、例年ふたご座流星群の極大日。Core Ultraシリーズの開発コードネーム・Meteor Lakeの「Meteor」には流星の意味があります。Intel社がそこを狙っていたのかどうかは、知るよしもありませんが。
発表直後早々に、DELLなどのPCメーカーがCore Ultra搭載機の発売をアナウンスしています。販売価格帯を見ると、従来のCore iシリーズ搭載機と比べて、極端に高価な値付けにはなっていないようです。それなりのユーザーに行き渡る販売量は確保されている…ということなのでしょうか。
CESにもCore Ultra搭載機は数多く展示されていたようです。とはいえ、「Core Ultraだから」ということで劇的に新しいデザインになっているものは多くなく、基本的には従来のクラムシェル型ノートや2in1の形で、中身を刷新したものになっています。ASUSの「14型2画面」ノート・Zenbook Duo(2024)は意欲的な攻めたデザインで面白いのですが、ちょっと重そうです。
プロセッサーよりも気になったのが、ディスプレイとしてOLED(いわゆる有機EL)を採用した製品がこれまで以上に増えてきたこと。モバイルノートPCにとっては、バックライトを別途用意する必要がないOLEDは、薄型・軽量化や省電力の面で液晶ディスプレイより有利なはずで、実際に採用例も出てきていますが、まだ価格面での競争力が無かったのか、なかなかメインストリームに降りてこなかった感があります。
スマホ用ではすっかり一般化しましたが、そろそろ、日系メーカーの皆さんもPCにもっと使ってくれないかなぁ…と期待しています。軽量化に燃える富士通さんが、そろそろLIFEBOOK UHに使ってもおかしくない気はしますね。
…と、それはともかく。Core Ultraの新機軸の一つが、NPU(Neural network Processing Unit)と呼ばれるモジュールが搭載されたことです。これがあることでAIの処理が省電力で、高速に行える…というのが売りになっていて、Intel社でも「これからはAI PCだ」と大々的に宣伝を始めています。
とはいえ、このNPU、そんなに特殊な計算をしているわけでもありません。NPUが処理するのは、AIの中でもニューラルネットワークと呼ばれるものに関する計算です。大量の足し算と掛け算を並列して行う性能が高いと有効(機械学習は基本的には行列計算の繰り返しですからね)で、これがちょうどGPUの構造ともマッチしたわけですが、NPUはこれをAI関連の処理用にさらに特化したものになっています。
しかも、NPUを標準搭載するというアプローチではIntelは最後発。既にAppleのiPhoneやMac向けプロセッサーにも、QualcommのSnapdragonにも、AMDのRyzenにも、同様のハードウェアが搭載されていて、今頃大騒ぎするのも、やや周回遅れの感があります。そもそもスマートフォンに搭載できるくらいの機能ですから、消費電力面でもそれほど負荷にはならないのでしょう。
既にスマートフォンではNPUがかなり活用されているのに、PCではまだまだこれからだった原因の一端は、影響力の大きいIntelの出遅れにあったのでは?と思っています。これで、ソフトウェア側の対応が加速するはずです。業界としては、ようやくこれからが本番、といったところでしょうか。
現在話題のチャットAIや画像生成AIでも、もちろんNPUの存在は効いてきますが、現在これらは基本的にクラウドサービスとして提供されています。MicrosoftのCopilot in Windowsでも、チャットの回答が戻ってくるのにものすご~く待たされることがしばしばありますが、処理の一部だけでもローカルでNPUが分担できれば、応答速度はずいぶん速くなるでしょうし、情報をクラウド上にアップロードするセキュリティリスクも低減できるはずです。
PCの世界でもNPUの活用が進むことで、特に「コンテンツを創る」作業をすることが多いPCでは、作業のあり方が変わっていくのだろう…と思います。実際に、SSK World程度のショボいコンテンツでも、AIは部分的に使い始めつつありますしね。AIにもできる部分は任せて、自分ではもっと高度な作業に集中する…とできれば理想です。
AIが自然文の指示から文章や画像などを生成できるようになったとは言え、現時点では、意図したとおりのものを作ってもらうための指示の与え方にかなりコツがあります。そうした意味では、私たち人間の仕事はまだ残っている…ということになりそうです。もっとも、画像生成AIに与えるプロンプトをチャットAIに作ってもらう…なんてことも当たり前に行われますし、この後どうなっていくのかは予断を許しません。2~3年前の状況を思い出してみるだけでも、現在の生成系AI百花繚乱の状況を予測するのは困難だったはずです。
そう考えると、現在各方面で盛んにアピールされている「AI PC」のあり方がいつまで続くのか?も、まだ不透明に感じます。それでも、NPUのやっている仕事の内容を考えると、将来的にコレが全く不要になるとは考えにくいですけどね。むしろ、あって当たり前で、わざわざ存在に触れることがないくらい溶け込んでしまう可能性の方が高いかも知れません。
そろそろ手持ちのPCがくたびれてきた私にとって、次に手に入れるべきPCは、やはりNPUが載った「AI PC」だと思うのですが、どうしたものか…。とりあえずは、もう少し各社の製品が出揃ってから考えた方が良さそうです。
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